2011年3月4日金曜日

しょせんカンニング、目くじらを立てすぎないように


 京大や早稲田、同志社の入試で、携帯電話とヤフーの知恵袋を利用したカンニングが発覚し、「犯人」の予備校生が逮捕された。メディアは大騒ぎし、警察はまるでテロリストでも捕まえたかのような物々しさだ。カンニングは不正であることは言を待たないが、この騒ぎ方と逮捕は明らかにやりすぎだ、と私は思う。
 しょせんカンニングではないか。「偽計業務妨害罪容疑」などと騒ぐから、話は大袈裟になる。入学試験も基本的には教育活動の一環なのだから、教育上のトラブルは、教育的に処理されるのが原則ではないか。せいぜい受験者全員の公平性の観点から、カンニングした受験生の合格取り消しで十分だろう。
 警察に被害届を出した京大の偉そうなおじさんたちの記者会見をテレビでみていて、ふと40年ほど前、某大学の定期試験で起こった大量カンニング事件を思い出した。
 その年の定期試験に限って、大量のカンニング事件が発生したのである。それら発覚したカンニングのほとんどは、ゼロックス機の縮小コピー機能を使ったカンニングペーパーによるものだった。事件に直面した教授陣は「われわれが学生だった頃は、カンペは苦心して自作したものだ。安易に縮小コピーなど使うとはけしからん」と続発を大いに怖れ、学部長名による特別警告声明を発表し、見せしめ的にきびしい処分を実施した。
 しかし、しょせん学生たちにとってみれば、ひごろ当たり前に使っている日常的テクノロジーを使っただけで、なにも、かれらが格別に悪賢いわけではないし、悪質だったのでもない。そして、なぜその年だけカンニングが多発したかと言えば、なにを隠そう、大学院生としてその年だけ試験監督のアルバイトをしたこの私が、視力2.0という眼力を活用して熱心に仕事をしたからにすぎない。今回の事件も、ヤフーの知恵袋を熱心にチェックしていた閲覧者がいたからに過ぎないだろう。
 今回のカンニングを、IT技術を駆使した犯行とか騒ぐのはいささか大袈裟だろう。かれらにとって、日常的ツールをちょっとルールをやぶって使ってしまっただけなのだから。大騒ぎするのは、入試を実施する大学、報道するメディア、とりしまる警察などを仕切っているオジサンたちが、あまりにも現代のIT環境の進化から取り残されているからに過ぎない。オジサンたちは、IT技術をやすやすと使う若者たちを内心やっかんでいるのはないか。そして、彼らのちょっとしたルール違反を鬼の首をとったように声高に言挙げし、溜飲を下げているように思える。
 考えてみれば、縮小コピーでカンニングペーパーをこしらえたのは、そんなオジサンの同世代たちだったではないか。オジサンたちの中にも、ひょっとして縮小コピーのカンニングペーパーを左手の中に忍ばせたことのある連中もいるに違いない。
 新しいメディア技術を使っているからといって、大騒ぎせず、不正を起こさせないような工夫をこれから考えればよいだけだろう。
 そして、何よりも、あいかわらず一発主義の入学試験に依存しつづける、入学者選抜制度の無策にこそ諸悪の根源があると、この事件から学ぶことの方がよっぽど意義のあることのように思える。

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